今日の帰り道
それは、突然の出会いだった―――。
出会いは突然に・・・
私は疲れきっていた―――。
会社と自宅を往復する代わり映えのない毎日、結婚の話題をふってくる両親、etc…
普段なら八王子あたりで1、2位を争う美貌の持ち主と持て囃される私も、これだけ疲れきっていれば”中の上”くらいの顔になってしまっているに違いない。
いくら顔が美しいとはいっても死んだ魚のような目をした女が、ものすごいスピードで自転車を漕いでいるのだ。きっと周りから見たら恐怖以外のないものでもないのだろう。
それでも自転車を漕ぎ続けなければ家にたどり着くことはないので、私は必死になる。
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真っ暗な夜道だというのに、自転車のライトはつかない。
こんなことはもう慣れっこだ。
ライトのことを意識したからだろうか。ふと、この自転車を買った時のことを思い出した。
「このライトは最新式でね、暗いところでオート点灯するんです!すごいでしょう?」ホームセンターの片隅でいやらしい笑みを浮かべる店員の顔と営業トークが頭の中に流れた。
「これが最新式ねっ」
衝動的にもう何年も役目を果たさないプラスチックの塊を蹴った。
単純にいらついて?
いや・・・頭の中からあの店員の顔を消し去るためにそうしたのかもしれない。
それにしても一昔前の自転車のオートライトというものは案外信用ならない。
少しでも薄暗い場所に行けば当然ライトがついてしまうし、昼間でも少し曇っているだけ反応してしまうのだ。
まったく自ら寿命を縮ませてどうする。これだから”オートライト”というものはバカだ!
そんな行き場のない怒りをぶつけるかのように私の自転車を漕ぐスポードは上がっていく。
危ないっ!
目の前の集団に気づくのがあと数秒遅れていればきっと私の美しい顔に傷がつく程度の軽い衝突事故が起こっていたに違いない。
目の前には自転車に乗った4人の男子学生。背格好を見るにきっと高校生だろう。
横並びになってのろのろと蛇行運転をする彼ら。
なぜだかイラつきは感じなかった。
暗い夜道を一人で帰るより、少々騒がしい彼らの後ろについて行くほうが気が紛れたからかもしれない。
ニューエラキャップをかぶった彼に目が止まった。
他の誰でもないニューエラキャップの彼が私の視界を埋め尽くしたのだ。
N…Y…
NY…にきび…やべぇ
NY…なべ…やかん
NY…七転び…八起き
次から次へとNYに省略できる単語が浮かんでくる。
蛇口から水が出てくるように、自然にNYに省略できる溢れ出てくるのだ。
私は今まで感じたことのない高揚感を感じていた、楽しい。楽しい。私は楽しんでいる。私は生きている。
ひさびさに感じたこの気持ち、私はこんな気持ちを与えてくれたニューエラキャップの彼の顔が見たくなった。
私をこんな気持ちにさせたニューエラキャップの彼は一体どんな顔をしているのだろう。
学生だから可愛らしいかな?それとも意外と男らしかったりして。
振り返ってくれないだろうか・・・
私に気がついてくれないだろうか・・・
と思った次の瞬間
なんでやねん!!!
なんでお前やねん!なんで隣のお前が振り返るん!!いがぐり頭はお呼びじゃないのよ!!!
んっ!?
なんでやねん…
なんで…やねん???
これだ!
NY=なんでやねん
完璧だ!
なんて今日一番のNY単語を生み出すことができた!!!
はぁ、今日は蒸し暑い。
家に帰ったら冷蔵庫で冷やしておいたアイスコーヒーを飲もう―――。
私はニューエラキャップの彼のことなどすっかり忘れ、いつの間にか縦1列に並び変わっていた彼らの横をすり抜け、一度失ってしまったスピードを取り戻すため全力で自転車のペダルを踏みだしていた。
いがぐり頭「おい、お前らさっきも言ったろ!横並びになんなよ!一列になれって!」
聞こえてくるいがぐり頭の声はもう遠い――――――。
おしゃキミが贈るハートフルストーリー「今日の帰り道」(完)
あとがき
あとがきというかさ~今日の暑さに頭がやられたのでしょうか?私。
でも個人ブログだから何書いてもいいよね。ちなみに本当にあったことなのでノンフィクションです。これで私も小説家デビューですね!やったね、だれか仕事ください(切実)
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